
田中史子の
つぶやきコラム
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2025.5.5
オーバーローン不動産と財産分与について
離婚時、財産分与の対象財産が不動産だけの場合、不動産の評価額が住宅ローン残額よりも低く、オーバーローンであれば、財産分与請求権は発生しません。
夫婦で住宅ローンを返済してきていても、その結果が積極財産(プラスの財産)としては存在していないからです。
一方、オーバーローンの不動産以外にも、預金等の積極財産が存在する場合には、どのように考えればよいのかが問題となります。
この点、①積極財産の総額から住宅ローンの残額を控除して、分与対象財産を算出する方法と、②オーバーローンの不動産を無価値とみて対象財産から除外し、残りの財産についてのみ分与をする方法があります。
東京高等裁判所令和6年8月21日判決においては、上記の①を原則としたうえで、「ただし、住宅用不動産は他の財産分与の対象となる財産(動産、流動資産)とは成立を異にし、住宅ローン債務は、当該不動産を取得することを目的とする借入債務であって、離婚の成立後の支払分は財産分与により当該不動産の全部を取得する配偶者にとってその取得のための対価的性質を持つ側面もあるといえる」とし、上記①の精算方法によったのでは財産分与における当事者間の衡平を害するというべき事情が認められる場合には、民法768条3項の「一切の事情」として考慮して、財産分与の額及び方法を定めることもある、としています。
当事者の衡平を害するというべき事情の例としては、不動産を取得できない配偶者において、当該不動産からの退去を余儀無くされる上、分与されるべき財産が存在せず、あるいは離婚後の生活が困難となる程度に分与額が少額となるような場合等があげられています。
なお、この判決においては、結論としては、「当事者間の衡平を害するというべき事情があるとは認められない」とし、控訴が棄却されています。
オーバーローンの不動産がある場合、財産分与をどのようにするかは裁判例によっても異なり、難しい問題ですが、事案の具体的な内容に応じ、「当事者間の衡平」を考慮して判断していくことが必要であると思います。